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SNSがない時代から「nakata.net」で発信 中田英寿が語るインターネット

公開日:2021年3月12日

中田 英寿(なかた ひでとし)

ベルマーレ平塚を経て、1998年にイタリアセリエAのA.C.ペルージャに移籍。以後、8シーズンにわたりヨーロッパで活躍。プロサッカー選手の引退後、2015年に「JAPAN CRAFT SAKE COMPANY」を設立。日本酒に関する幅広い活動を行う。

マーク・ザッカーバーグがまだFacebookを作っておらず、TwitterもYouTubeもこの世に登場していなく、「ブログ」という言葉さえ一般的ではなかった1998年。21歳の若きサッカープレーヤーだった中田英寿さんは、「nakata.net」というウェブサイトを立ち上げ、ファンに向けて自らの言葉を発信。

2006年にサッカープレーヤーを引退し、日本酒・伝統工芸の世界に飛び込んだ後も、アプリの開発やブロックチェーンでの日本酒の輸送・保管管理システムの構築など、インターネットテクノロジーを活用し続けているという。そんな中田さんに、インターネットとの向き合い方を語ってもらった。

中田英寿が「nakata.net」を立ち上げた理由

――1998年、中田さんは21歳のときに自身のウェブサイト「nakata.net」を立ち上げました。現在では、アスリートや著名人がSNSを通して意見を発表するのも当たり前になっていますが、当時はまだ、メディアも含め大手企業が自社のウェブサイトを作りはじめたぐらいの時期で、個人としてはかなり画期的だったと記憶しています。あらためて、「nakata.net」をスタートしたときのことを教えてください。

当時の僕は、自分の意見を積極的に発信していきたかったというよりも、新聞やテレビなどのメディアとの付き合い方を悩んでいたのが、インターネットを始めたきっかけです。

というのも、当時はアスリートはもちろん、俳優や歌手など、あらゆる人達の発信できる場所が新聞やテレビ、雑誌などのメディアだけでした。だからある意味、どのように記者に対して気に入られるかが、良い記事を書いてもらう唯一の方法でした。一方では、記者に対して話したことが、世に出ていく段階ではまるで違うということが何度もありました。プレーを批判されることは、まったく問題ありません。しかし、自分の言葉が切り取られ、意図しない形に加工され、ときには言ってもいない内容を書かれることもある。これが許せなかった。

自分の言葉を、意図を、誰かを通してでなく直接伝えたいと思ったとき、ちょうど「インターネット」というツールが登場しました。メディアを介さずとも、このツールを使って直接発信すればいいんだ、と考えたのが個人のウェブサイトを始めたきっかけです。実際、「nakata.net」を立ち上げてからは、毎日のように長文メールを書いて公開していました。

――「nakata.net」は、1日平均300万PV、最大で1日に2500万PVと、当時としては破格の読者数を誇っていたと聞きました。反響も大きかったのではないでしょうか?

かなり大きかったですね。自分で発信する場所を作ったことで、既存メディアとは話をしなくなっていったし、読者の方も「より生の声を聞きたい」という思いが多々あったのではないでしょうか。

多いときは、1日1万件くらいコメントがありました。試合に負けたときなどは、批判も多い。今でいう炎上みたいな状態。でも、必ず全部のコメントに目を通していました。練習時間以外のほとんどをコメントを読むために使っていたかもしれない。

批判のコメントを読むのはストレスがたまるけれど、これが発信する人間の義務であり、いろんな考え方や見方があることを知る勉強にはなりました。精神的にもかなり鍛えられましたね。大変なこともありましたが、やっていくうちに、ダイレクトに情報発信すること、さらにはインターネットの大きな可能性を感じるようになりました。

最初は、文章だけでしたが、その後は「nakata.net mobile」で生音声の発信や、独自の映像を撮って、「nakata.net TV」というテレビ番組も作りました。今で言うYoutubeの先駆けのようなモノですね。いろいろ経験したことで、情報の価値とはどういうものか、ダイレクトに発信することの利点、そして怖さも学んだ気がします。

日本酒・伝統工芸の世界でも活用し続けるインターネット

――2006年にサッカープレーヤーを引退した後、2015年には、JAPAN CRAFT SAKE COMPANYを設立し、日本酒を始めとした伝統産業でイノベーションを起こされています。また、昨年には、立教大学の客員教授に就任し、さらには金沢にある国立工芸館の名誉館長にも就任されました。なぜサッカーと畑ちがいの分野に飛び込むことになったのでしょうか?

いちばん大きなきっかけは、2009年から日本全国を旅したことです。というのも、世界中を旅した結果、日本人としてのアイデンティティーの重要さに気付き、自分の生まれ育った国について学びたいと思うようになりました。

当初は1年くらいかけて沖縄から北海道まで47都道府県をまわろうと計画していましたが、実際に旅を始めてみると、知らないこと、おもしろいことばかり。滞在期間や旅の回数が増えていき、1つの県に、のべ2カ月以上滞在することも。7年ほど掛けて日本全国一周はしましたが、現在も常に旅にいく生活が10年以上続いています。

旅で重視したのは、現地に行かなければ得られない情報、インターネットではなかなか出てこない情報を得ること。特に、場所ではなく、農家や酒蔵、工芸家など伝統産業の人に会いに行くこと。現場を訪ねると、いまも高度な技術で素晴らしいモノを作っている人たちがたくさんいます。その歴史や生き様にほれ、これをサッカーの次の仕事としていきたいと思うまで、そう時間はかかりませんでした。

世界に誇る素晴らしいモノを作る一方で、伝統産業には大きな問題もありました。地域の日々の生活として長く続いてきた伝統産業には、「知られていて当たり前」という概念が強くあります。結果、流通が発達し、地域から全国へ、全国から世界へ販売できるようになっても、情報発信をすることはほとんどなく、インターネットにも情報が出てこない生産者はたくさんいます。クオリティの高いモノを作っても情報発信をせず、どんなに良いモノなのか、どこに売っているのかが分からなければ消費者が手にとることはありません。

僕は、日本酒や工芸品を自分で作ることはできません。しかし、生産者と協力しあい、生の情報やその素晴らしいモノを消費者に届けることならできます。それがインターネットを早くから活用し、また生産者の現場を知る自分だからこそできる事なのではないかと考えるようになりました。

――日本酒アプリ「Sakenomy」では、全国の酒蔵や日本酒のデータベースや、ユーザーの「飲んだ」お酒の記録から「飲みたい」お酒の検索までさまざまな機能があると聞きました。また、今年1月から日本酒を直接購入できる「Sakenomy shop」をはじめられたそうですね。これまでインターネットのテクノロジーと縁が薄かった業界の活性化につながっていると思いますが、伝統ある業界だからこその難しさもあるのではないでしょうか?

まず先ほど話をしたように、僕の役割は「情報」と「流通」を作り、生産者と消費者を直接結びつけること。そこで何よりも重要なのは、生産者の声を、情報を、正確に伝えること。これは、自分がサッカー選手時代に経験したメディアと体験もあり、「情報の信憑性」を1番重要視しているということです。

伝統産業は、数百年続く企業や家族も多く、信用が無ければ何も成り立たない。だからこそ、僕のように違う業界から入る人にとっては非常に敷居が高く、信用がなければ、情報をもらうことは難しく、ましてや商品を購入することはさらに困難です。だからこそ、できるだけ時間を使って現地を訪れ、一緒に時を過ごすことで信用を作りました。

これまで伝統産業がなかなか入ってこなかったインターネット。だからこそ、生産者しか知り得ない生の情報が大きな価値になる。日本酒であれば、造り手しか知らないおいしい飲み方から合う料理、またはそのお酒に合う地元のお取り寄せなど。Sakenomyでは、さらにその地域で数百年もの長い間商売をしてきた蔵元だからこそ知る、地元お薦めの宿やレストラン情報、旅行で使える情報まで紹介しています。インターネットでは、これからは数ではなく、そういう信憑性ある情報がさらに大事になってくると思います。

コロナ禍を機に伝統産業でもさまざまな変革が進んでいます。農業では、消費者と直接的につながった生産者の売り上げが、これまで以上になっているそうです。こういった変化は、コロナ禍に関係なく、今後どんどん進んでいくでしょう。「Sekenomy」もマーケットやテクノロジーの変化にあわせて、より使いやすく進化しなくてはならないと思っています。

――コロナ禍で生産者支援のために始められた「Sakenomy shop」では、日本酒の輸送・保管の管理にも、かなりこだわっているそうですね。

まず昨年、このコロナ禍が始まって以来、売り上げが大きく減ったという酒蔵の声を聞いて、当時はまだアプリしかなかったSakenomyを、このままでは酒蔵の存続も危ないと思い、予定よりもだいぶ前倒しでオンラインショップ「Sakenomy Shop」をアプリと連動する形で始めました。これにより、気に入ったお酒がどこで買えるのか分からないという問題を解決。特に、家飲み需要が伸びているので、蔵の売り上げに少しでも貢献できれば、と思います。

僕がこだわりたかったのは、日本酒の味。というのも、これまで酒蔵で飲むのと飲食店で飲むのとで味が違うと感じることが多くありました。これは、日本酒の輸送や保管の問題です。全国400以上の蔵を見てきましたが、できあがった日本酒を0度以下の低温で管理している蔵がたくさんありました。

ワインでもそうですが、日本酒もきちんとした温度管理をしなければ、品質は劣化してしまいます。だからこそ、Sakenomy Shopでは、酒蔵での最高の味を届けることにこだわり、すべての日本酒を蔵から直送しています。

さらに、会社では海外輸出において、低温で輸送・保管するためにブロックチェーンを活用したシステムの構築を進めています。低温輸送のコールドチェーンとブロックチェーンの活用により、蔵元から出荷された日本酒の一本一本が、いまどこでどんな状態にあるのかをひと目でチェックできるようになります。

そして、海外に行かずとも毎日の販売数量や消費者の嗜好性などもすぐに把握できますから、マーケティング的にも大きな意味があるはずです。これが実現できれば、日本酒以外にも、焼酎や醤油、味噌、お茶などあらゆる場所で活用ができるはずです。

――流通まで変えていくとなると、かなり壮大な事業になります。時間も労力もかなりかかるのではないですか?

もちろん決して簡単なことではありませんし、すでに数年開発を続けています。しかし、このシステムができあがれば、伝統産業は一気に変わり、より長く続く可能性が増えると思っています。それが僕にとっては目標のようなモノなのです。

サッカーも好きだからこそ続けられました。この伝統産業も、サッカーと同じです。好きだから、楽しいからやるだけで、プロになることや有名になることが目的ではありません。どんなに大変でも、好きなことをやり続けられることが人生のしあわせだと思います。

「SNSを個人で使おうとは思わない」 ネットとの付き合い方

――現在の会社やプロジェクトごとの活動では、インターネットテクノロジーを積極的に活用していますが、中田さん個人でTwitterやInstagramをやっているわけではありません。Facebookのアカウントも持っていないと聞きましたが……。

やっていないです。個人として発信したい情報がありません。もちろん情報を広めるにはとても便利なツールですから、会社やプロジェクトごとに発信すべきことがあれば使います。でも、現状、個人としては、メールや電話で十分です。重要な事は、情報の質や伝え方。量ではないと思います。

――中田さんにとってインターネットはどういうツールですか? どのように活用していますか?

情報を知るだけなら、インターネットは本当に便利だと思います。でも実際に体験していない情報は、ただの文字列に過ぎない。そこに自分自身の体験が結びつくことで、ようやく理解でき、本当の知識になります。だから、ネットで調べただけの自分が実際に経験していない情報を100%信じることはないです。

――インターネットを介したコミュニケーションについてはどのように考えていますか?

コロナ禍が始まって以来、インターネットによるコミュニケーションがかなり進んだと思います。新しいツールもたくさん開発されました。僕の会社でもリモートのミーティングが増えてきましたが、やはりコミュニケーションのクオリティはどうしても下がってしまうと感じています。会って話したとしてもなかなか100%伝わらないのに、リモートになるとますますギャップが大きくなる。

仕事をしていく上では、コミュニケーションのロスが実は仕事のミスの大半だと思います。コミュニケーションとは言葉だけではありません。表情や体の動きなどさまざまなところから相手を理解しようとします。直接会っていれば見えることでも、電話、メール、オンライン会議など、見えない部分が増えれば増えるほど、クオリティは下がると思います。結局、効率が悪いということになるのではないかと思っています。

――インターネットは今後どのように進化していくべき、進化してほしいと考えていますか?

いまはどうしてもエンターテイメント性の高いものがクローズアップされがちですが、もっと根本的な問題解決に活用されるべきだと思っています。

たとえば医療の分野で、家族のカルテをアプリ化できないのか。子どもの頃は親が病院につれて行ってくれるが、どうしても自分は覚えていない。結局は、親に聞いて何となくしかしらない、みたいなことに……。他にも、病院で親の病歴について聞かれることがあってもすぐには分からない。

電子カルテアプリができたら、自分が生まれた日からの病歴からカラダの変化まですぐに把握できる。そのほか、商標登録とか公的な手続きなどもどんどん電子化して、手続きを簡略化してほしいですね。あれほど非効率なモノはない気がします。

インターネットは、毎日の生活がよりストレスなく、幸せを感じられる環境作りのために、本来使われるべきではないでしょうか。幸せを生むツールとしてのインターネットの進化に期待しています。

取材・文:川上 康介 編集:杉山 大祐(ノオト) 撮影:藤原 慶

中田 英寿(なかた ひでとし)

1977年生まれ。山梨県出身。1995年、Jリーグ ベルマーレ平塚に入団。1998年、フランスW杯出場後、イタリアセリエAのA.C.ペルージャに移籍。以後、5チーム8シーズンにわたってヨーロッパのトップチームで活躍。日本代表としてW杯に3大会連続出場。2006年、29歳でプロサッカー選手を引退。2009年4月、全国47都道府県をめぐる旅をスタート。この旅をきっかけにこれまで400を超える酒蔵を訪問。日本酒の美味しさと文化的可能性を強く感じたことから、2015年には、「株式会社 JAPAN CRAFT SAKE COMPANY」を設立。日本酒に関するコンサルティング、日本酒セラー「Sake Cellar」、日本酒アプリ「Sakenomy」、オリジナル酒器ブランド「Nathand」の開発など、幅広い活動を行っている。プロデュースする世界最大の日本酒イベント「CRAFT SAKE WEEK」は、2018年に国際PRアワードの最高峰「ゴールデン・ワールド・アワーズ」で最優秀賞を獲得するなど、業界を超えた注目を集めている。
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